
こんにちは。今日は大学院留学先としてイギリスを選んだ理由を振り返りたいと思います。
これまでに書かせていただいたように、40代で1児(しかも乳児)の母だった私は、ワーク・ライフ・バランスならぬスタディ・ライフ・バランスを念頭に、家族全員で半年間だけイギリスに渡航することになりました。(一家全員で半年間の留学となった顛末については、前回までのブログ記事をご参照ください)
おすすめのブログ
私の留学先の選択には、子連れ・夫の仕事の都合など、私の個人的な事情が大きく関係しているので、必ずしも多くの方にとって参考になるわけではないかもしれません。なので、この記事では、私の理由をご紹介する前に、私も参考にした、イギリス大学院留学のメリットを取り上げた、ようこおすすめのブログを2つ、ご紹介したいと思います。
おすすめのブログ1:「イギリス大学院に社会人留学するメリット・デメリット」
リンクはこちら→ https://saya-culture.com/uk-master-merit-demerit/
1つ目のおすすめは、University College Londonで教育社会学の修士課程を修め、現在は同博士課程にご留学中のSayaさんが運営するブログ「異文化の魔法」から。
私自身がイギリス留学の準備を始めた時から一番参考にしており、Sayaさんのご発信から多くのことを教えてもらってきました。
Sayaさんのブログでは、イギリス留学の中でも特に一度社会人として勤務経験してからイギリスの大学院に留学することに特化し、「大学院の授業と経験を結びつけることができる」
「授業中のディスカッションで経験談を語ることができる」など、そのメリットを書いてくださっています。イギリス留学のメリットは多くの留学エージェントのウェブサイトなどからも知ることができますが、大学院だけでなく、学部、語学学校、高校など学習環境もそれに付随した生活も異なる点にあまり考慮がなく、全般的なイギリスの良さを挙げているに過ぎないものも散見されますので、Sayaさんのように社会人経験を経た大学院留学にフォーカスして書かれている記事は、貴重です。
Sayaさんご自身と同じように、私も社会人15年目でようやく留学が実現したので、とても参考になりました。一方で学部を卒業したての方などには別の観点があるかもしれませんが、「子連れ」「社会人」「帯同」などのキーワードに着目して私のブログを読んでくださっている方には、身近なアドバイスとなる点も多く書かれていると思います。ぜひご参照ください。
おすすめのブログ2:「イギリス大学や大学院のメリット【実体験から解説します】」
2つ目のおすすめブログは、リーズ大学の大学院で経営学を専攻された舞原さんのブログ「MaiBara&」から。私がロンドンに到着して間もない頃、右も左も分からないことだらけで、毎日Twitterで他のイギリスへの留学生のツイートをサーフィンしていたところ、「それは出願する前に知っておきたかったよー」というイギリス留学の裏技的な有益情報を連発するスターが連日登場し、夢中で読むようになりました。それが舞原さんです。
ブログでは、イギリスの高等教育機関の教育水準の高さや先見性、イギリスの文化や気候・風土、旅行など、勉強と子育てに手一杯で、イギリスという国の楽しい部分を味わい尽くせなかった私の頭の中からは絶対に出てこない、イギリスに今すぐいきたくなるような魅力が列挙されています。
中でも私がここで触れておきたいのは、「2年間の就労ビザがもらえる」というメリット。Graduate Visaと言って、イギリスの大学・大学院を卒業時に申請すると、その後2年間就労の有無に関わらずイギリスに滞在することができるビザを発給してもらえます。学生ビザで滞在していた時と違って制限なく就労することができますし、また仕事が見つからず就活中・インターンやボランティアをしたり、何もしていなくても、イギリスに滞在することができます。このビザがあることによって、イギリスは留学先としてだけでなく、留学後の就職や生活の面においても魅力的な国と言えると思います。
私の理由
さて、ここまでは私がイギリス大学院留学を検討中の皆様にお伝えしたい、イギリス大学留学のメリットです。ここからは、私自身がなぜ留学先にイギリスを選んだのか、を書きますね。必ずしもメリットというわけではなく、むしろやむ無しで選んだ、という面もあるので、同じような制約のある中で留学をなんとか実現させたいと考えている方の参考になれば幸いです。

理由1:修士課程が1年間
一番の理由は、やはり、他の国では2年かかることが多い修士課程を、イギリスで1年間で修了できることです。
多くの社会人の方がそうだと思いますが、私も就労期間のブランクを長引かせたくなかったので、イギリスの修士課程が1年で終わると知った時から、心の中ではイギリスにほぼ決めていたように思います。
また、我が家は「子供をさずかったら、家族全員で外国に1年間行く」ということを決めていました。1年間というのは、夫(大学教員)がサバティカルを取得できる期間は最長1年間という都合によるものでもあるので、それ以上の期間外国に出ることは考えていませんでした。だから必然的に1年で学位を取得できる、という前提条件のもと、イギリスに照準を合わせていました。
あとから留学仲間などに教えてもらい、イギリス以外の国でも1年間の修士課程はあることを知りましたが、留学先選びをしていた当時の私はそのような情報に辿り着けず、自然とイギリス一択と決めてしまっていました。
理由2:英語圏
私と夫の両方の都合を考慮する上で、公用語が英語の国に行く、ということも重視していました。私は授業を理解できるほど習熟している言語は日本語と英語しかないので、留学先は英語圏に絞りたいと思っていました。これも、今振り返ると、非英語圏でも学部はともかく大学院の授業は英語で行われている場合が多々あり、必ずしも公用語にこだわる必要はなかったかもしれないな、と今なら思います。修士課程が1年間という耳寄り情報と合わせて、イギリスが私の中では早い段階から大学院留学先のトップ・プライオリティとなっていました。
一方で、夫は結婚する前10年以上ワシントンD Cの研究機関に勤務していたことから、サバティカルでの研究先もそちらを検討していた時期もありました。しかし、私自身はワシントンD Cと自分が勉強したいアート・マネジメントがどうしても結びつかず、またアメリカの修士課程は2年かかるので、その選択肢には消極的でした。
理由3:トータルで見ると学費が安い
「イギリスの学費が安い???」「ドイツは無料だぞ???」という声が聞こえてきそうですが、ものは考えようです。年間の学費は割高ですが、1年間だけですむということはトータルでの出費を考えるとお得なのではないでしょうか。
また、イギリスの通貨ポンドは、為替の変動が思ったよりも激しいという点も私の認識に影響しています。私が初めてイギリス留学を意識した頃、1ポンド=約250円でした。数年後のある日、イギリス留学フェアでエージェントの方が「現在は150円程度に収まっており、生活費も含めると、当時と比べ300万円近くの差が出る」とお話しされていたのを聞いてお得に感じ、その後自分が留学するまで「もっと下がれ〜」と念じながら何年も過ごしてきました。イギリスで就職する人のことを考えたらなんとも短絡的ですね。結局私が留学した時は1ポンド=約150円で学費は19,800ポンド(約300万円)となりました。
理由4:英語のスコアが基準に満たなくても出願できる
ほとんどの場合、外国の大学院に入学するには外国語の能力を証明する必要があり、イギリスの場合はI E L T Sという英語の4技能(Reading、Listening、Writing、Speaking)の能力に関するテストを受け、そのスコアを提出する必要があります。多くの大学院ではOA
(4技能の平均)とwritingがそれぞれ6.5〜7.0以上という基準を設けているのではないでしょうか。
ただし、イギリスの大学・大学院の中には、出願時にはI E L T Sなどのスコアの提出が必須でない場合もあります。私の進学先の大学もそうで、私はWritingのスコアが進学先の定めた基準に満たなかったので、出願時にはI E L T Sのスコアはなしで、ステートメント(志望理由書)、大学までの成績表、推薦状などのみを揃えて出願し、条件付き合格(conditional offerと言います)をもらいました。
もちろん、大学・大学院に入学するまでには、定められた基準に達しなければなりません。私も条件付き合格の通知をもらったからには必死で、妊娠8ヶ月にもかかわらずほぼ毎日英語の講座に通って、IELTSを受けに行った記憶があります(「大阪の試験会場で妊婦さんが受けにきていたの、みたよ」とその後に何人かの方に言われました、それはおそらく私です汗)。そうまでしたのに、またWritingで失敗してしまい、結局私は入学までにIELTSの基準スコアをクリアすることができませんでした。でも大丈夫!イギリスの大学・大学院では「プレセッショナル(pre-sessional)」という入学前の英語集中講座を設けている学校が多く、そのような大学ではプレセッショナルを受講することで、英語テストのスコア提出を免除される場合がほとんどです。私も結局入学前に1ヶ月間の講座を受け、入学資格を得ました。
理由5:周囲がイギリス留学経験者ばかりだった
前回のブログで、フランスに語学留学し、いつかはフランスの劇場で研修を受けたいなーと20代の頃はうっすら思っていたのですが、30代になるとキャリア形成のための時間の短さを意識するようになり、海外に行くなら学位を得られた方が良いと思うようになりました。そのような経緯から、30代に入ってからはフランスのことは一旦忘れて、英語圏の大学院に留学して学位を取得するということを考えるようになりました。その中でイギリスが有力な選択肢となっていったのは上記の通りです。
最終的には文化政策と文化外交を専攻しましたが、私はアート・マネージャーとして仕事をしていたので、長い間アート・マネジメントを専攻したいと思っていました。何年か働いているうちに、周囲を見渡すと、国内も外国でも同業者は「アートマネージャーも歩けばイギリスにあたる」と言わんばかりに、大学院留学経験者の誰もがイギリスの、アート・マネジメントの教育で有力な4、5校のどれかの出身である、という状況に気がつきました。アメリカのニューヨーク大学やコロンビア大学や、フランスのグランゼコール(専門課程のエリート校)に行った人も中にはいましたが、やはりイギリスが圧倒的に多かったように思います。そんなわけで、イギリスでアート・マネジメントを学べる大学院の情報を自然と収集するようになり、「私もイギリスに留学したいな」と思うようになっていきました。
理由6:学びたい学問の本場
アート・マネジメントはイギリスの文化産業で発展して世界へと知られるようになった業種であり、その担い手の教育もイギリスが発祥の地と言えると思います。だからこそ、上記のように、アート・マネージャーがこぞってイギリスに留学する状況があったのでしょうし、実際私が進学した大学院のArts Administration and Cultural Policy(MA, AACP)というコースは、今でもとても人気で、たくさんの留学生がいました。私も当初はこのコースへの進学を目指していましたが、すでに15年もアート・マネージャーとして働いてきたので、もっと他のことが勉強してみたい、と思うようになり、AACPの必修科目を履修できる別のコースを専攻しました。
今では日本でもアート・マネジメントを教える大学はたくさんあります。しかし、学びたい学問の発祥の地である、ということは、それだけ文献や資料も豊富にあるということを意味するので、本場で学ぶことに価値はあると思います。
理由7:コモンウェルス/多様性のある学習環境
誤解を恐れずにいうと、私は長い間イギリスという国の「王・貴族を頂点とした階級社会」「白人中心主義」のようなイメージに好感を持てず、また影響力の大きな国ゆえに日本で触れることのできる情報も多く、あまり新鮮味を感じていませんでした。
そのような私の先入観を大きく覆したのが、2012年のロンドン五輪の際の文化的なキャンペーンでした。世界中の人々がイギリスを目指し、そしてイギリスは彼らを受け入れ多様性のある社会を築いているというイメージ・キャペーンに衝撃を受け、日本との違いを強烈に感じて、そのような社会での生活を経験してみたいと思うようになりました。
多様性のある社会は何もイギリスだけに限ったものではありませんが、私はイギリス(グレートブリテンおよび北部アイルランド連合王国)とイギリスがかつて統治していた世界の各国が構成するコモンウェルス(Commonwealth of Nations, イギリス連邦)という緩やかな連合の影響に注目していました。現在は独立国となっている旧植民地ではありながら、イギリス王を国家元首とし、イギリスの文化を継承している国が世界に約50あり、それらの国から親しんだイギリス式かつ高い水準の教育を求めてイギリスに留学してくる人々は少なくありません。
ネットワークがあるということは、それらの国々に関する情報の蓄積も多くあるということを意味すると思います。例えば日本にいると、どうしてもアフリカ諸国に関する情報が少なく勉強するにも苦労しそうですが、イギリスにはイギリスだけでなく、イギリスがネットワークを持つ様々な国の情報も人も集まってきており、多様な世界のことを、多様な仲間とともに学ぶことができると確信したので、イギリスへの留学がとても魅力的なものに思えるようになりました。
実際留学してみて、留学生の多さに驚きました。私の進学先は3割が留学生と言われていますが、体感としては5割以上が外国から来ている感じがします。私のコースは10名の学生が在籍していましたが、そのうち英国籍者は2名だけで後の8名は外国人でした。私の指導教授も現在はイギリス国籍を取得していますが、ポルトガル出身です。
理由8:芸術系大学の独自のあり方
私は、舞台芸術業界で長く働いてきましたが、アーティストではなく、アート・マネージャーです。アートをビジネス(産業)として成立・成長させるのが仕事なので、アートの仕事にもクリエイションだけでなく、ビジネスの側面があることが認識されないのがしばしばとても残念でした。
イギリスでは2000年代後半から、クリエイティビティをイノベーションの原動力とする上で、その教育の場として芸大にビジネスマンが押し寄せるようなりました。中でもRoyal College of Artは現在ビジネスにおいても広く普及しているデザイン思考のあり方に決定的な転換をもたらしたスペキュラティブ・デザインが発祥した大学で、私も留学中に芸術系のバックグラウンドがないながらもRCAで熱心に勉強する社会人学生の方に何人も出会いました。RCAは、芸術系大学でありながら、なんとM B Aのコースもあります。
かく言う私の進学先も、アートやデザインなどクリエイティブ産業と他の産業の接点となるような場で新しいビジネスを立ち上げていくような起業教育に力を入れており、そのことは私のキャリア形成への展望に基づいた学校選びにも大きく関係していました。
理由9:欧州の旅行へのアクセス
仕事で欧州に足を運ぶことがたびたびあったので、本当に恵まれていましたが、それでも欧州各国を好きなように回れるわけではなく、私にとっては欧州のどこかに留学して欧州の全ての国を訪れることは悲願でした。舞原さんもブログで書かれているように、イギリスからは欧州各地にLCCで渡ることができ、留学などで長期的に滞在する場合は、ぜひ合わせてイギリス以外の欧州各国にも足を運んでみるべきだと思います。
私は、というと、例えば「アイルランドはイギリス留学の夢が叶った際にきっと行く機会があると思うので」とか言いながら、結局昨年の留学時には行けず、憧れの地でありながら、まだ人生で一度もアイルランドに行ったことがありません!行きたい!昨年の留学時はまだパンデミックの影響が大きく、特に小さい子供がいる中で旅行は躊躇されたので、海外旅行はおろか、イギリス国内の旅行もほとんど行けず、ずーっとロンドンにいました。それでも見飽きることはないくらいロンドンは魅力に溢れた街ですが、留学時の最大の心残りがあるとしたら、やはり旅行に行かれなかったことだと思います。
理由10: 知っているようで知らない国
このように、大学院の留学先としてイギリスを選んだ理由を理屈っぽく書いてきましたが、留学を終えて帰国した今言えることは、やはり百聞は一見にしかず、行ってみなければわからないし、知り得ないことが本当にたくさんありました。「知った気にならず、異文化に真摯に向き合う」と言うことを学べた、と言う点でもイギリスに留学して良かったと思います。
約7000字の長文記事、最後までお読みくださり、ありがとうございました!