2020年9月から英国サセックス大学MA Migration Studiesに在学中のみのりと申します。
前回の投稿に引き続き、第2弾では2021年1月末~5月の春学期を振り返ろうと思います。4カ月もあるのと思われるかもしれませんが、今年の春学期は3月の最終週から4月の第3週までがイースター休暇で、かつ授業は4月末で終了したため、授業があったのは実質2か月程でした。終わってみるとあっけなかったなあと思いますが、その実就活とのバランスを崩し勉強に集中できていませんでした。就活については最後で触れたいと思います。
授業について
春学期は必修科目と選択科目で構成されます。全員が必ず受ける必修科目は1つだけでした。選択科目の選択方法は、4つの科目の組み合わせが5パターン提示され、そのうち一つを選ぶというものです。MA Migration Studiesの学生が選択できる科目の組み合わせは以下のとおりです。組み合わせや授業の中身、担当の先生は毎年変わる可能性があるのでご留意ください。(各科目の詳しいシラバスはこちら)
Option 1
Refugees, Displacement & Humanitarian
Migration, Rights and Governance
Option 2
Transnationalism, Diaspora and Migrants’ Lives
Migration, Refugees and Wellbeing
Option 3
Migration, Rights and Governance
Transnationalism, Diaspora and Migrants’ Lives
Option 4
Refugees, Displacement and Humanitarian Responses
Migration, Refugees and Wellbeing
Option 5
Refugees, Displacement and Humanitarian Responses
Transnationalism, Diaspora and Migrants’ Lives
私はoption4を選択しました。1週間の授業スケジュールはこんな感じです。

以下にそれぞれの授業の詳細を書いていきます。
- Refugees, Displacement and Humanitarian Responses
これぞまさに難民支援、という内容の授業です。難民を中心とした強制移動を強いられた人々と人道支援の関係を扱います。秋学期と同じく、1時間のpre-recorded lecture(実際は1時間半を超えることがほとんどでしたが)と2時間のseminarで構成されています。11週で下記のようなテーマを扱います。
・「難民」とは誰か?
・緊急人道支援の現場のステークホルダー
・大規模な強制移動を引き起こすもの
・恒久的解決策とは?
・難民キャンプと都市
・強制移住者を区別する
・移動するアイデンティティ
・難民の力(agency)、抵抗
・Global NorthとGlobal Southを繋ぐ
この授業はMA Migration StudiesとMA Migration and Global Development以外のコース生も受講できたため、できるだけ少人数の授業にするために13:00-15:00のグループと15:00-17:00のグループに分けられました。私は前半のグループで、30人弱のクラスメートと共にseminarに臨みました。受講生は各4~5人のReading groupに分けられ、毎週4本のcore readingを1本ずつ担当し、seminarまでに500wordsのreaction memoを書きます。メモには担当論文のmain argumentや研究手法などの重要な情報をまとめ、それらに対するコメントを書きます。Reaction memoはassessmentには入らないのですが、seminarでの議論を実りあるものにするために、そして何より先生が言っていることについていくために(ここ大事)かなり有効な予習方法でした。ただし1本の論文の内容とコメントを500語に収める作業は地味に難しく、最初は30ページの論文1本につき読みこむのに2時間、メモを完成させるのに3時間かかっていました。加えて他のグループメンバーの担当する論文も読む必要があるので、ひたすら読んで読んで読みまくる、という予習パターンでした。
Lectureは事前に録画されているもので、core readingの内容がベースになっています。カリキュラム上は1時間ですが、実際は1時間半を超えることの方が多かったです。Seminarでは最初reading groupのメンバー毎にブレイクアウトルームに分かれ、それぞれの担当論文について情報共有し、Padletという掲示板に書き込んでいきます。メインルームに戻ると、先生が気になったコメントをピックアップして全体での議論のテーマを提示します。それをメインルームやブレイクアウトルームに戻って議論します。最終的に、seminarの終わりに各グループが一つ、その週のテーマに沿ったclaimを作ります。例えば「恒久的解決策の妥当性」がテーマの週には、「帰還は最善の解決策か否か?」というclaimが提出されていました。これらのclaimが、このmoduleのassessmentとなるportfolioの問いになります。ちなみに、lecture, seminarと並んでfilmというカテゴリーの時間もあったのですが、これは昨年度まで受講生で集まって難民に関するドキュメンタリーを視聴していたときの名残で、今年はそれらのドキュメンタリーを各自で好きな時間に観るように指定されていました(上記のスケジュールでcancelled sessionとされている授業です)。
このmoduleの成績は、1800wordsのportfolio(評価の30%)と3000wordsのterm paper(評価の70%)で決まります。受講生は前述のclaimが集まったclaim集から、自分の好きなものを選択してportfolioを書きます。Portfolioって何だと最初は戸惑いましたが、かなり短いessayだと思えば良いと思います。これの提出期限は3月10日でした。続いて3000wordsのterm paperでは、全授業を通して関心を持ったテーマについて、学生個人がオリジナルのclaimを作ることができます。先生に承認されると、そのテーマでペーパーを書くことができます。他の人の作ったものを使用することも可能ですが、私を含めほとんど全員がオリジナルのclaimを使用していました。こちらの締切は、春学期の授業が終わってほぼ1カ月後の5月25日です。 - Migration, Refugee and Wellbeing
これが私の関心に一番近い授業でした。難民の福祉、ウェルビーイング、メンタルヘルスを扱います。受講生は聴講生を含め15人ほどで、MA Migration Studiesからは4人、MA Migration and Global Developmentからは3人、他はmigrationと名前の付かないコースからの参加でした。2時間のリアルタイムの授業のうち、前半1時間は先生によるlecture、後半1時間はcore readingの内容を学生がプレゼンし、それを元にディスカッションするseminarでした。Refugees, Displacement and Humanitarian Responsesに比べて授業時間が1時間少ないため、この授業で取得できる単位も、予習に求められる時間も少ないです。Core readingは各週4本ほどですが、その中で集中的に読むべき論文が2本ほど指定され、それをおさえていればseminarでの議論にはついていけます(もちろん全部読むに越したことはないのですが…)。またseminarでの5分間のプレゼンは完全ボランティアで、忙しさに合わせてするかしないか決めることができました。私は欲を張り、就活のスケジュールが少し落ち着いた3月第4週(week9)でプレゼンをしました。やはり一人で5分間話さなければならないとなると気合が入るもので、いつもより論文の内容が頭に入り勉強になりました。また受講生からの評判も良かったので、マスター生活が始まって初めて周りに認められたような、小さな自信に繋がりました。
この授業の評価方法は3月8日締切のconcept note(1000words)と5月24日締切のessay(4000words)でした。再びconcept noteってなんやねんという戸惑いを隠せませんでしたが、これはあるテーマに関する主要な概念を説明し、それについて文献を用いて議論しmain argumentを作るというものだと理解しています。つまり、こんなテーマについてこういう条件を満たしながら書きなさい、と指定されるので、それに沿って1000語でまとめたというわけです。ただ、もう一つの課題であるessayでも似たような指示があったので、あまり課題のラベリングについて敏感になる必要もないかもしれません。 - Research Method and Professional Skills (RMPS)
この授業が春学期唯一の全員必修科目で、修士論文を書くための研究手法をコンパクトに学ぶものです。カバーしていたトピックの例は以下のとおりです。
【必修】
・文献レビューの方法
・データを集める方法と方法論の脱植民地化
・研究のインパクトとメディアおよびコミュニケーション戦略
・修士論文の進め方
【選択】
・インタビュー調査法
・エスノグラフィーと参与観察
・参加型手法とステークホルダーの分析
・量的調査方法
・研究倫理(フィールドワークやplacementに行く人向け)
私は質的研究に関心があったため、量的調査以外の授業に参加しました(本当は量的調査の授業も出たかったのですがキャパオーバーでした)。このmoduleも1時間(実際は1時間半)のpre-recorded lectureと2時間のworkshopで構成されます。Migration Studiesが所属するSchool of Global Studies(国際学研究科)のコース生の大部分が参加するmoduleのため、受講生が計100人を超えておりチームを組んでプレゼンなどできる環境ではありませんでした。その代わり、workshopでは先生がcore readingに沿ったワークシートを提示し、4~6人のブレイクアウトルームでそれに取り組むという形式が取られていました。Core readingは週に5本ほどで、ボリューミーなものが多く全て読んで理解するのは至難の業でした。他の学生を見ても、workshopまでに全て読み込んできたという人はかなり少なかったです。
授業内で毎回強調されていたのは、脱植民地化(decolonisation)という考え方です。かなりざっくり言うと、これはヨーロッパ中心主義的な考え方を調査対象に押し付けてはいけないという主張と理解しています。研究者が当然と思っている価値観や、それによって生み出された調査手法の構造上の問題に目を向けなさいと何度も注意喚起されました。受講生の中でも数少ない東アジア出身者としてヨーロッパ中心主義に一石を投じたいと、workshop中は日本の価値観と比較することを常に心がけていましたが、うまくグループメンバーに伝えられたかは大いに疑問です。
このmoduleの問題点は、選択トピックは必ず何個出席しなければならない、という最低基準がないことです。極端に言えば、必修トピックの週さえ出ていれば、選択トピックの週は全て出席しなくても良いわけです。さらにworkshopもメインルームはほぼ録画されて後日公開されるため、出席しなくても致命傷にはなりません。そのため、60人以上参加登録をしている授業でも実際に出席したのは30人程度、という週が何回もありました。かく言う私も、恥ずかしい話ですが就活で疲れ果て途中で授業を抜けたことがありました。就活と勉学を両立させている周りの日本人学生の優秀さを痛いほど感じました。
就活との両立

私は2020年の3月に日本の大学の学部を卒業し、9月にイギリスの修士課程をスタートさせました。社会人経験も、学部時代に就活で面接まで進んだ経験もありませんでした。そんな状態で初めての本格的な就活を迎え、春学期はほぼパニック状態でした。
結論から言うと、私はロンドンキャリアフォーラム経由で4月に1社、リクナビ経由で6月に日本の民間企業1社から内定をいただきました。就活スケジュールはこんな感じです。

企業説明会は日本時間に合わせて行われるため、深夜2時や3時にスーツを着て化粧して参加することも何度かありました。特に本エントリーが始まった3月からは目が回りました。自己分析は渡英してからすぐ、何なら学部生の頃からやっていたはずなのに、いざエントリーが迫ってくると「あれ、私はイギリスの修士課程まで来たのに、イギリスのNGOにアプライせず日本の企業にエントリーするの?」とか、「結局学部のときにいいなと思っていた企業と変わってなくない?自分イギリスで何を学んだ?」とか次々と悩みはじめ、頭を休めるということをしていませんでした。大学院の課題提出が3月上旬に2つ控えているなか、勉強も就活も妥協せずやろうとした結果体調を崩し、課題を一つ提出することができませんでした。最終的に大学に事情を説明しなんとかなったのですが、これが大学院生活最大の挫折だったかもしれません。
これから大学院と新卒就活の両立を控える方に何かアドバイスできるとすれば、ストイックに自分を追い込むより、限られた時間の中でいかに効率良く動くかを考えること、そしてそれからはみ出たことは「まいっか」と潔く諦めることかと思います。完璧主義は功を奏することもありますが、本当に追いつめられると身を滅ぼします。優先順位を決めて、勉強に集中したいと思ったら就活をストップしてもいいと思います。
終わりに:夏学期へ
春学期の課題提出を終え、就職活動も終了した現在は、修士論文の執筆に集中しています。締切は8月26日。夏学期は授業は一切なく、修論のsupervisorとの面談が数回あるのみです。3か月で10000wordsの論文を書くというのもなかなか挑戦的なのですが、怒涛の秋・春学期から考えれば精神的に大分楽です。書き終わったらまた記事を書いて、どのように執筆を進めたかお伝えできればと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。